お気に入りの美しい和歌たち


学生時代から、古典や歌集に描かれる美しい日本の言葉たちである和歌に惹かれ続けています。

貴重でかけがえのない日本の文化で、財産とも言える和歌。

季節のきらめきや恋の熱情を歌ったものなど、私のお気に入りの和歌たちをご紹介します。

百人一首から

◇ 春すぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山:持統天皇

春の日はとうに過ぎて、もう夏が来てしまったみたい。

夏は、天の人が降り立ったという香具山に、白い着物を干して乾かすうるわしい季節。

命が最も明るく輝く季節。

大和三山(耳成山・畝傍山)のひとつである香具山に、真っ白な衣がたくさん干されているのだから、夏になったという証ですね。



◇ かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きをみれば 夜ぞふけにける:中納言家持

七夕の夜になると、かささぎが美しく白い羽(かささぎはツートンカラーの美しい羽を持っています。羽先が白い色をしています)を幾重にも連ねて橋を渡し、天の川を作るという。

白い羽を持つ鳥たちが、織姫さまと彦星さまのために逢瀬の橋をかけるなんて、想像するだけでもロマンチックです。星たちが橋の周りで瞬く声まで聞こえてきそう。

そのかささぎが作ったと言われる天上の橋のような宮中の階段に、真っ白い霜が降りているのをみると、夜がもう更けてしまったのだなあとしみじみ感じてしまいます。



◇ 筑波嶺の 峰より落つる 男女川 恋ぞつもりて 淵となりぬる:陽成院

茨城県にある筑波山。

その筑波山の峰から流れ来る男女川(みなのがわ)の水量が、いずれ増えて深い淵となるように、私があなたを慕う恋心もとりとめのない深い深い淵を作ってしまいました。

募る想いは、乾き尽きることのないたくさんの水のように。



◇ 君がため 春の野にいでて 若菜摘む わが衣手に 雪は降りつつ:光孝天皇

あなたに渡そうと、春の野原に出て若菜(おそらく、春の七草でしょう)を摘んでいます。

季節は春。

けれど空からは雪がちらちらと舞い降りて、私の着物の袖に降りかかってきます。

それでも私は春の雪など構わずに、あなたのために春の薬草を摘み続けています。



◇ 月みれば ちぢにものこそ かなしけれ わが身ひとつの 秋にはあらねど:大江千里

空を見上げると、美しい月。

その月を眺めていると、色んな思いが胸を去来して、なんだかもの悲しく切ない気持ちになってしまいます。

どうして秋はこんなにも、人をメランコリックな心持ちにさせるのだろう。

秋という淋しさを誘う季節は、私ひとりきりのものではないのだけれど。



◇ やすらはで 寝なましものを さ夜ふけて かたぶくまでの 月を見しかな:赤染衛門

今日、あなたが私のもとへ来ないと知っていたなら。

そうしたら、私はあなたのことなんて放っておいて寝てしまえたのに。

もうすぐ来るんじゃないかと思ってずっと待っていたから、明け方の月が西に傾くところまで見つめ続けてしまいました。

薄情なあなたのせいで。



◇ 長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れてけさは ものをこそ思へ:待賢門院堀河

あなたがこの先もずっと私のことを好きかどうかなんて、わからないのに。

人の気持ちなんて、当てにならないものなのに。

それなのに私は、あなたと枕を交わしてしまいました。

白いシーツの上で乱れる私の黒髪は、私の心の内を物語っているみたい。

あなたとのことは間違いではなかったのかと、この黒髪のように私の心がかき乱されます。



◇ 風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりけり:従二位家隆

優しい風が、楢(なら)の葉を揺らしています。

そよそよ、そよそよと風音が耳に心地よく聞こえてくる。

京都上賀茂神社の御手洗川(みたらしがわ)で見る夕暮れ時には、もう秋の気配が混じっています。

けれど、夏越の祓(なごしのはらえ:旧暦6月に行われる神事)のために行われている禊(みそぎ:神事を執り行う前に水で身を清めること)を見ると、今はまだ季節が夏なんだなあと実感します。


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与謝野晶子:歌集「みだれ髪」から

◇ 柔肌の 熱き血潮に 触れもみで 寂しからずや 道を説く君

若い私の柔らかい肌。熱い恋の熱情。

この心と体を抱くこともしないで、「人生とは」と語り続けるのは、いとしい人。

恋の歓びを交わすこともしないで、あなたは淋しくはないのですか。



◇ 清水へ 祇園をよぎる 桜月夜 こよひ逢うひと みなうつくしき

空を見上げると、朧月(おぼろづき:春の夜空にぼんやりと霞むような月)。

季節は春。月明かりに照らされて、桜の花びらがたゆたう様は、夢のよう。

清水へ行こうと祇園をよぎると、月も桜もただ美しい。

私の心が弾んでいるせいか、月と桜だけでなく、すれ違う人たちの姿も美しいと感じます。



◇ 水無月の 青き空より こぼれたる 日の種に咲く 日まはりの花

6月。草も花もその命を輝かせる季節。

夏空はただただ青く澄み切っていて、黄金色の太陽が、清い光を地上に落としています。

その光を糧にして、ひまわりの花が鮮やかな黄色を誇るように咲いている。

私の目にも心にも、その明るい色と生命力が届くようです。



◇ 自らを 春の姉とも 思ひなし 静かに人を 恋ふるこのごろ

私は、春という季節と姉妹でいるような気持ちなのです。

春は、風が柔らかくて暖かくて、そして恋が芽生える美しい季節。

私もひそやかに、あなたのことを想っています。



◇ 十二月 今年の底に 身を置きて 人寒けれど 椿花咲く

1年の最後の月、師走。今年の底がやって来ました。

この月を迎えて、寒さはより一層心と体とに沁みてきます。

けれど外には、寒さの中に真紅の椿の花が咲いています。

丸い真っ赤な花びら。鮮烈な黄色の雄しべ。深い緑の葉っぱ。

冷気に体は縮んでしまうけれど、椿の花の美しさが、春はもうすぐと元気づけてくれるような気持ちになります。


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番外編1:更級日記から

◇ あさみどり 花もひとつに 霞みつつ おぼろに見ゆる 春の夜の月

淡く薄い、みどり色の春の空。

春霞の中で、その浅みどり色の空も美しい春の花たちも、全てが朧(おぼろ)に包まれたように幻想的に見えます。

その中で淡くぼんやりと輝く夜の月。

夢みたいな春の優しい情景に、私は心が惹かれるのです。


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番外編2:万葉集(柿本人麻呂歌集)から

◇ 天の海に 雲の波立ち 月の船 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ

天の青は空の海。

雲の白は波がしらの白色。

光り輝く金色の月は、天上を行く美しい船だ。

鈴なりのきらめく星たちは夜空の林となって、月の船の姿を隠していく。

その幻のように美しい光景を、私は地上から眺めている。


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私の「お気に入りの和歌たち」15首、いかがだったでしょうか。

私が今まで読んできた古典や和歌集の中から、とても心に響いた歌たちを集めてみました。

最後まで読んでくださった方はお気づきかもしれませんが、ここに書かれた訳は専門家による直訳等ではなく、思い切り私の意訳です。

できるだけ今の言葉に置き換えて、心情や情景をわかりやすくお伝えできたらいいなと思い、考えてみたものです(そんなに逸脱してはいないと思いますが、もしそうなってしまっていたらごめんなさい)。

新元号が「令和」に決まり、最近では日本最古の和歌集である万葉集に注目が集まっているそうです。

現在、女子高生など若い人の間では韓国がブームなのだそうですが、これを機に美しい日本の文化である和歌や古典に興味を持つ人が増えたらいいなと思います。

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